「被相続人」という言葉は、相続の手続きを進めるときに必ず出てくる法律用語です。
普段は聞き慣れない言葉のため、「相続人と何が違うの?」と戸惑う方も多いのではないでしょうか。
被相続人とは、亡くなった方のうち、財産や権利義務を相続人に引き継ぐ側の人を指す言葉です。相続人が「財産を受け継ぐ人」であるのに対し、被相続人は「財産を遺して亡くなった人」という、いわば主語が逆の関係にあります。
本記事では、被相続人の基本的な意味から、相続人との違い、実際の手続きで必要になる戸籍謄本の集め方、財産・借金の扱いまで、公的機関の情報をもとに整理してわかりやすく解説します。
被相続人とは?意味をわかりやすく解説

民法では、相続について次のように定めています。
「相続は、死亡によって開始する」
つまり被相続人とは、この条文にある「死亡した人」そのものを指す言葉です。
戸籍上の呼び方ではなく、あくまで相続の場面で使われる法律上の呼称という点も押さえておきましょう。
似た言葉に「故人」がありますが、故人は日常語であるのに対し、被相続人は相続手続きの書類や専門家との会話で使われる法律用語という違いがあります。
注意したいのは、被相続人という呼び方は、あくまで死亡した後の相続の場面で使われる言葉だという点です。
生前に「将来の相続に備えて財産を整理する人」を指して被相続人と呼ぶことはなく、その段階では単に「本人」「財産の持ち主」と表現します。
実際にこの言葉を目にする場面としては、金融機関の相続手続き案内や、法務局・税務署に提出する書類、司法書士・税理士との打ち合わせなどが代表的です。
書類には「被相続人(亡くなった方)」のように補足がついていることも多いので、初めて見た方でも文脈から意味をつかみやすいはずです。
被相続人と相続人の違い
被相続人と相続人は一文字違いで紛らわしいため、混同してしまう方が少なくありません。
- 被相続人:財産や権利義務を遺して亡くなった人(1人)
- 相続人:被相続人の財産を受け継ぐ人(複数人になることが多い)
相続人になれる人の範囲と順位は、民法によって決められています。配偶者は常に相続人となり、それ以外は「子」「親」「兄弟姉妹」の順で優先順位が決まる仕組みです。
この順位や割合について詳しくは、遺産相続の順位・割合を解説した記事で図解付きにまとめています。
なお、相続人が複数いる場合、被相続人は1人でも相続人は数人〜十数人になるケースもあります。
例えば、被相続人に配偶者と子2人がいる場合、相続人は配偶者と子2人の合計3人です。
子がすでに亡くなっていて孫がいる場合は、孫が代わりに相続人になる「代襲相続」という仕組みもあり、相続人の範囲が想定より広がることもあります。
誰が相続人にあたるのかを正確に確定させる作業が、次の章で説明する戸籍謄本の収集です。
相続はいつから始まる?被相続人の死亡から始まる手続きの流れ
先ほどの民法第882条のとおり、相続は被相続人が亡くなった瞬間に自動的に始まります。
「相続の手続きをするかどうか」を選べるのはこの後の話で、開始自体は本人の意思とは関係なく発生する点が特徴です。
死亡後は、主に次のような期限つきの手続きが控えています。
- 死亡届の提出(死亡を知った日から7日以内)
- 遺言書の有無の確認
- 相続人の確定(戸籍謄本の収集)
- 相続財産・借金の把握
- 相続放棄・限定承認の検討(自己のために相続の開始を知った時から3か月以内)
- 相続税の申告・納付(被相続人の死亡を知った日の翌日から10か月以内)
葬儀や各種手続きに追われる中で、こうした期限が同時進行で迫ってくるのが相続の負担が大きいと感じられる理由の一つです。
特に相続放棄・限定承認の3か月と、相続税の10か月という期限は、後から延ばすことが難しいため注意が必要です。
「まだ大丈夫」と先延ばしにしているうちに期限が過ぎてしまうケースは実際に少なくありません。被相続人が亡くなったら、できるだけ早い段階で全体のスケジュールを把握しておくことをおすすめします。
相続税の申告期限については、相続税はいくらからかかるのかを解説した記事もあわせてご覧ください。
被相続人を確認する方法|戸籍謄本の集め方

相続の手続きでは、まず「誰が相続人にあたるか」を客観的に証明する必要があります。
そのために欠かせないのが、被相続人の出生から死亡までの連続した戸籍謄本を集める作業です。
結婚や転籍で本籍地が変わっていると、複数の市区町村役場にまたがって請求する必要があり、この作業を面倒に感じる方は少なくありません。
役場によっては郵送での請求にも対応していますが、返送までに数週間かかることもあるため、遠方の役所が絡む場合は早めに手をつけておくと安心です。
必要になる書類は「戸籍謄本」だけとは限らず、法改正で様式が変わった際の「改製原戸籍」や、婚姻・転籍前の「除籍謄本」なども含めて、被相続人の一生分をつなぎ合わせて確認する必要があります。
「故人の戸籍謄本を出生から死亡まで遡って全て集める作業が非常に複雑で、遠方の役所への請求などに多くの時間と労力がかかり大変だった。不動産や複数の金融機関の名義変更手続きの提出書類も多く、個人では対応しきれない部分が多かった。司法書士などの専門家に相談したことで、書類の収集から名義変更までを正確かつ迅速に進めてもらうことができ、精神的な負担が大きく軽減された」
実際にこうした声もあるように、遠方への請求や本籍地の異動が絡むと、個人で対応しきるのは簡単ではありません。
集めた戸籍謄本の束は、そのままだと分厚く扱いにくいため、法務局に申し出て「法定相続情報一覧図」という1枚の証明書にまとめてもらう制度も用意されています。
戸籍謄本等の束を法務局(登記所)に提出すると、相続関係を一覧にした図に認証文を付けた写しを無料で交付してもらえる制度です。相続登記や預金の払戻し、相続税の申告などさまざまな手続きで使えます。
この制度の具体的な取得方法や必要書類は、法定相続情報一覧図の記事で詳しく解説しています。
被相続人の財産はどうなる?プラスの財産とマイナスの財産


相続と聞くと、預貯金や不動産などの「プラスの財産」を思い浮かべる方が多いかもしれません。
しかし相続財産には、借金やローンなどの「マイナスの財産」も含まれます。国税庁も、相続税の対象になる財産について次のように説明しています。
現金、預貯金、有価証券、宝石、土地、家屋などのほか、貸付金、特許権、著作権など金銭に見積もることができる経済的価値のあるすべてのものが対象になります。
この規定は主に相続税の課税対象を示すものですが、実際の遺産分割の場面でも、被相続人の資産と負債の両方を洗い出すことが出発点になります。
また、被相続人が生命保険に加入していた場合の死亡保険金や、勤務先から支払われる死亡退職金は、遺産分割の対象にはなりにくい一方で、相続税の計算では「みなし相続財産」として課税対象に含まれる点にも注意が必要です。
被相続人名義の預金通帳や、金融機関からの郵便物、固定資産税の納税通知書などを確認し、財産と負債の一覧を早めに作っておくと、その後の手続きがスムーズに進みます。
不動産を相続した場合は、2024年から相続登記が義務化され、法務省「相続登記の申請義務化について」によると、原則として所有権の取得を知った日から3年以内に名義変更の申請をする必要がある点もあわせて覚えておきましょう。
被相続人に借金があった場合の対処法|相続放棄・限定承認
財産を調べた結果、借金の方が多いとわかることもあります。
その場合に備えて、民法では相続人を守るための2つの選択肢が用意されています。
- 相続放棄:プラスの財産もマイナスの財産も一切受け継がない
- 限定承認:プラスの財産の範囲内でのみマイナスの財産を引き継ぐ
どちらも家庭裁判所への申述が必要で、期限は自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内です。
この期間を過ぎると、原則として「単純承認」といって、プラスもマイナスもすべて引き継いだものとみなされてしまいます。
なお、限定承認は相続人全員が共同で申述する必要があるのに対し、相続放棄は相続人ごとに単独で選べる点が実務上の大きな違いです。
相続人の中に一人でも限定承認に反対する人がいると、限定承認という選択肢自体が使えなくなるため、事前に相続人同士で話し合っておくことが重要です。
相続の放棄をするときは、その旨を家庭裁判所に申述しなければなりません。申述の期間は、自己のために相続の開始があったことを知った時から3か月以内とされています。
相続放棄の具体的な手続きや必要書類は、相続放棄の記事にまとめてありますので、期限が近い方は早めに確認してください。
家族・相続人同士でのトラブルを防ぐために
被相続人が亡くなった直後は、気持ちの整理がつかないまま手続きに追われることも少なくありません。
そんな中で相続人同士の情報共有が不足すると、後になって「誰がどこまで進めたのか分からない」という行き違いが起きがちです。
被相続人の財産・負債の状況は、わかった時点で相続人全員に早めに共有しておくことがトラブル防止につながります。
特に、遠方に住む相続人がいる場合や、相続人の中に未成年者・認知症の方がいる場合は、手続きが複雑になりやすいため注意が必要です。
財産の内容や進捗状況を簡単な一覧表にまとめ、相続人全員がいつでも確認できるようにしておくだけでも、「聞いていない」「勝手に進めていた」といった行き違いはかなり減らせます。
戸籍謄本の収集から遺産分割協議書の作成まで、司法書士・弁護士・税理士といった専門家に相談することで、書類の不備や手続き漏れを防ぎやすくなります。
相続に関する無料相談の探し方は、終活・相続の無料相談先を紹介した記事で紹介しています。
よくある質問
- 被相続人とはどんな意味ですか?
-
被相続人とは、財産や権利義務を相続人に引き継ぐ側の、亡くなった方を指す法律用語です。相続人が財産を受け継ぐ側であるのに対し、被相続人は財産を遺す側という違いがあります。
- 被相続人と相続人はどちらが先に決まりますか?
-
被相続人は死亡した本人なので、先に決まっているというより「その人自身」です。相続人は、被相続人との続柄をもとに民法の順位に従って確定します。
- 被相続人の戸籍謄本はどこで取得できますか?
-
被相続人の本籍地があった市区町村役場で取得できます。本籍地が転籍で変わっている場合は、それぞれの役場に個別に請求する必要があります。
- 被相続人に借金があるかどうかはどう調べますか?
-
被相続人宛の郵便物や通帳の履歴、信用情報機関への開示請求などから確認する方法があります。借金が多い可能性がある場合は、早めに専門家へ相談することをおすすめします。
- 相続放棄の期限を過ぎてしまったらどうなりますか?
-
原則として単純承認したものとみなされ、プラスの財産もマイナスの財産もすべて引き継ぐことになります。事情によっては期限の伸長が認められる場合もあるため、早めに家庭裁判所や専門家に相談してください。
- 被相続人の不動産を相続したら必ず登記しないといけませんか?
-
2024年4月から相続登記が義務化されており、原則として所有権の取得を知った日から3年以内に登記の申請が必要です。正当な理由なく手続きを怠ると、10万円以下の過料の対象になる場合があります。
まとめ
被相続人とは、財産や権利義務を相続人に引き継ぐ、亡くなった方を指す法律用語です。
相続は被相続人の死亡と同時に始まり、戸籍謄本による相続人の確定、財産・借金の把握、相続放棄の検討まで、期限つきの手続きが連続します。
まずは被相続人の戸籍謄本を集めて相続人を確定させることから始め、財産と負債の状況を早めに把握しておきましょう。
相続放棄・限定承認は3か月、相続税の申告は10か月、相続登記は3年というように、それぞれ異なる期限が設定されている点も見落とさないようにしたいところです。
手続きが複雑だと感じたら、一人で抱え込まず司法書士・弁護士・税理士といった専門家に相談することも検討してください。








